2020年に迎えた“再生”と、その先にあるもの/Perfume 8th Tour 2020「P Cubed」in Dome 個人的ガイドライン

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2016年10〜11月の6th Tour「COSMIC EXPLORER」以来、Perfumeにとって約3年ぶりのドームツアーとなる「P Cubed」。情報解禁にともない、今回もセットリスト&演出について、そしてそれらを観て感じた“個人的な解釈”をまとめていこうと思う。

 (本文は2月のツアー期間中に執筆)

 

【2月末追記】

今月、国内でも感染が急速に拡大した新型コロナウィルス。2月26日(水)、開演数時間前に発表された「感染拡大防止のための政府要請」のため、当日に迎えるはずだった今ツアーの千秋楽公演はやむなく中止となった。ふさぎこむようなショックを受けたファンも多いはずだが、この“個人的解釈”をとおして「Perfumeの三人が何を表現したかったのか」を少しでも汲み取ってもらえたら、と思う。

以下、新型コロナウィルスに関する情報、描写は「一切ナシ」。

 

▼Set List(括弧内はリリース年)

  OP-Opera

M01 GAME(2008)

M02 Spending all my time(2012)

M03 Dream Fighter(2008)

M04 レーザービーム(2011)

 MC

M05 Hurly Burly(2012)

M06 だいじょばない(2013)

M07 ナナナナナイロ(2019)

M08 SEVENTH HEAVEN(2007)※1

M09 P Cubed Medley ※2

M10 Chrome(2020)

M11 edge(2008)

M12 Visualization(2019)

M13 再生(2019)

 P.T.A.のコーナー

M14 Party Maker(2013)

M15 パーフェクトスター・パーフェクトスタイル(2006)

M16 TOKYO GIRL(2017)

M17 ポリリズム(2007)

M18 Challenger(2019)

 MC

M19 MY COLOR(2011)

 

* * *

 

▼第一幕【Opening〜P Cubed Medley】

過去回想の中で迎える終焉

 

本題に入る前に、まずは『Perfume The Best“P Cubed”』――Perfumeが結成20周年目、メジャーデビュー15周年目を迎える直前にリリースしたベストアルバムについて、簡単にさらっておきたい。

 

 

発売発表は、2019年6月24日(月)放送の『SCHOOL OF LOCK!』(TOKYO FM)生放送教室にて。「新曲2曲を含む全52曲収録」という当初の発表どおり、新曲『Challenger』『ナナナナナイロ』と、メジャーデビューシングル『リニアモーターガール』以降のリマスタリングした50曲を収録している。

 

 

当時、ベストが出ると事実上の活動終了になるという前例をいろいろ見ていたので、実はメンバーも僕も「終わり」が迫っているんじゃないかと感じていました。

(山本史朗/『Perfume LIVE DATA BOOK』)

 

ツアー初日のMCでのっちが、また、『Perfume LIVE DATA BOOK』内のインタビューで山本史郎(マネージャー)が語るように、Perfumeは2006年に一度ベストアルバムをリリースしている。「これで終わり」という“終止符”としてではなく、“シンプルな集大成”としては、今回の『P Cubed』が初のベストアルバムとなるのだ。

 

それを引っさげて行なう初のベストアルバムツアーは、これまで以上に“過去”を意識させる構成をとる。ピッチを変えた『ナナナナナイロ』から始まるオープニングでは、『Sweet Refrain』をきっかけに、さまざまな楽曲が混ぜ合わりながら『ポリリズム』まで辿っていく。1曲目以降も、Perfumeの“過去”を想起させる演出がこれでもかといわんばかりに詰め込まれていた。

 

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まずは『GAME』。「First Tour“GAME”」(2008)のオープニングで「扉が開いたその先、逆光の中へと三人がゆっくりと歩いていく映像」からスタートし、その後の『Dream Fighter』はMVを想起させる、シンプルなブラックバックのステージで歌い踊る。 SEVENTH HEAVEN』の冒頭には、「Perfume〜ソックス フィックス マックス〜」(2008)でのみ披露していたライブ用ピアノアレンジを差し込み、クライマックスの『ポリリズム』においては、初のドーム公演「1234567891011」(2010)にて、5万人で祝福した打ち上げ花火を打ち上げる。ファンの性質を考えるに、公演中に誰もが一度は唸ってしまうライブとなっていた。

 

 

上記は福岡公演MCのひと幕。あ〜ちゃんは今ツアー中に何度か、セットリストの意図について語っている。そのアンケート結果が開示されるのかどうか、執筆時点ではわからない。ただ、5曲目『Hurly Burly』〜『P Cubed Medley』には、このアンケートが大きく影響している。新旧問わない楽曲が、ときにはツアー中にもかかわらず微妙に流れを変えながら、数万人を踊らせるために息つく間もなく襲うように並べられていた。

 

――次に進む前に、話は少し横道にそれる。

 

知人に言われて初めて気がついたことだが、ライブ中盤を迎える『P Cubed Medley』には、2016年以降の楽曲が一切使われていない。一貫して、ブレイクの起爆剤のひとつである『チョコレイト・ディスコ』からBPMを徐々に上げていき、2015年にリリースされた『STAR TRAIN』で締めくくられる構成だ。

 

2015年とは、20年間続いてきたPerfume史において、ひとつのターニングポイントを迎えた年だ。ここで、2015年がPerfumeにとってどのような年だったのか……のっち、あ〜ちゃんが口にした言葉をもとに振り返らせてほしい。

 

常に目標を掲げて、そこに向かっていくっていうやり方で私たちは来てたんですけど、東京ドームだったりとか……もうこれ以上ないだろうなっていう目標を叶えてしまったときの不安感というか。そういうのがすごくあって。

(のっち/Eテレ『SWITCHインタビュー 達人達』。志村けんとの対談の中で)

 

15周年のアニバーサリーをやることに決めた3年前、このライブで一回立ち止まって、自分を見つめなおして、人生考えようとも思ってました。

あ〜ちゃん/『音楽と人』2015年12月号。「PPPPPPPPPP」広島グリーンアリーナ公演でのMC「いろいろ悩んだけれど、Perfumeを続けていくことに決めました」について)

  

チョコレイト・ディスコ』『ポリリズム』を機に加速度的に活動規模を拡大し、ドームという国内最大規模でのライブを、一度にかぎらず二度成功させた。そして、代々木第一体育館という“過去の後悔”を持つ会場を払拭したPerfumeは、当時26〜27歳。次々と目標を叶え続け、女性“アイドル”としてはベテランに位置した三人が、引き際を考えるには何もおかしくないタイミング――それが2015年だった。

 

結局のところ、三人は再び、別の目標を掲げて歩み始める。成長譚の第一章を終え、次の第二章へと進んでいく。『STAR TRAIN』とは、そんな三人の境目――一度意識した“終焉の瀬戸際”を象徴する楽曲なのだ。

 

話は本題、2020年の『P Cubed Medley』へと戻る。メドレーのラストを飾る『STAR TRAIN』の直前には、MVのラストシーンでコミックス(≒物語)を閉じる『未来のミュージアム』が差し込まれている。

 

 

短絡的ではあるが、『P Cubed Medley』は単純にアンケート上位の楽曲をBPM順に揃えたものではなく、「三人の急成長」「そして迎える“終焉の瀬戸際”」を表すものだった。

 

『STAR TRAIN』の振付の中で、三人はこぞって、地上からおりる縄梯子や糸をたぐり寄せるような動作を行なう。「まだ終われない」「まだ死なない」と、自身の“生”を求めるように。

 

▼第二幕【Chrome〜再生】

終焉からの“再生”

 

“終焉の瀬戸際”に直面したPerfumeは、暗転の中、今ツアーで初めてステージ上から行方をくらます。鳴り響くのは、中田ヤスタカが今ツアーのために書き下ろした楽曲『Chrome』。

 

ビルドアップ後、三人は映像の中で、順序よく次の動作を魅せていく。かしゆかが9体のオブジェクトと“10人”で踊れば、あ〜ちゃんは右脚を、のっちは右拳を画面正面へと突き刺す。「1234567891011」(2010)や「JPN」(2012)を彷彿とさせた三人の“像”は、続けて輪郭のみとなり、ステージ上の天井付近で重なり合っていく。

 

直後、三人は舞台袖からそれぞれ異なる音程で声を上げる。一度目。声は重なることなく、ただただ、縦にも横にも広い空間に漏れていく。

 

それでもなお、三人は発声を繰り返す。それらが共鳴する二度目。鳴り響くサイレン、唱えだすカウントダウン。腕を組みながらステージに再登場した三人のパフォーマンスは、『edge』へと続いていく。

 

chromechromium

原子番号24の元素。元素記号はCr。クロム族元素のひとつ。金属としての利用は、光沢があること、硬いこと、耐食性があることを利用するクロムメッキとしての用途が大きい 

 

三人それぞれが過去を踏襲したソロパフォーマンスを見せ、その上で歌声を合わせていくPerfume。自らが持つ性質を確固たるものとして、『edge』の中盤でようやく同じ地点に集う。そして、いつか必ず訪れてしまう本当の“死”を迎えるまで、こうあるべきと誓うように歌っていく。

 

誰だっていつかは死んでしまうでしょ

だったらその前にわたしの

一番硬くてとがった部分を

ぶつけて see new world

say yeh! 

 

一度の“死”を打ち破り、ともにステージに立つ強さを再確認し、その強度をさらに高めたPerfume。意志を固めた三人は、完全な復活を遂げる直前に、恩師によって過去――走馬灯を見る。

 

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過去のライブを振り返るシーン…映像だけでも成り立つように作っていたんだけど。これは…これは走馬灯のように、リアル走馬灯のように見えたほうが絶対に良いってなって。急に足したんです、その3人の動きを。

MIKIKO/『Perfume LOCKS!』2019年10月28日放送回)

Reframe 2019の感想を研究せよ | SCHOOL OF LOCK! | Perfume LOCKS!

 

『edge』に続く『(Kiseki - )Visualization』は、真鍋大度が「Reframe 2019」(2019)のために制作した楽曲だ。MIKIKOは同楽曲について、上記のように語っている。

 

今ツアーのために、同楽曲の最後には『VOICE』のワンフレーズが加えられた。そのフレーズを口にするタイミングで三人位置するのは、奇しくも10年前の「1234567891011」(2010)と同じドームの中央。 Perfumeはこの場所で、「まだ終われない」「まだ死なない」という意を込め、息を合わせて以下の言葉を述べていく。

 

点と点をつなげてこ

 

「これまでの“軌跡”を振り返るから」なのか、「過去を“奇跡”と捉え、その体験に何かを想うから」なのか。真鍋大度が当初どういう意図で『Kiseki』と名付けたのかはわからない。ただ、Perfumeはこの楽曲を経て、再度呼吸をともにすることで『再生』を遂げていく。

 

 

“過去”が詰まった箱を背景に、屈託のない笑顔を浮かべながら。

 

▼第三幕【Party Maker〜MY COLOR】

彼女たちが再生させたもの

 

第二幕で“再生”を果たした三人は、『P.T.A.のコーナー』を経て、『Party Meker』『パーフェクトスター・パーフェクトスタイル』『TOKYO GIRL』といった、ブレイク後の自身を象徴するような楽曲を矢継ぎ早に披露していく。

 

 

そういった怒涛の流れで迎えるのが、『ポリリズム』『Challenger』の2曲だ。

 

くどいようだが、『ポリリズム』とはPerfumeがブレイクを果たすきっかけとなった楽曲であり、そのブレイクの象徴として、「1234567891011」(2010)で大団円を迎えた楽曲である。三人そんな楽曲を、“過去回想”を表現してきた今ツアーのテーマを増幅させるように、「NHK渋谷エコライブ」(2008)をはじめとする“過去”の映像をバックにパフォーマンスを行なう。

 

ポリリズム

ポリリズム

 

 

2011年、関和亮は『ポリリズム』について次のように語っている。

 

ジャケットのイメージの方が先に出てきてまして。互いに相手の顔を持っているという、人の手が次の人の手を触っているという輪廻転生するような、ループするイメージ。

関和亮/『映像+』2011年SPRING号特集「ミュージックビデオとCMの現場」) 

 

“過去回想”、そして“輪廻転生≒再生”を経たPerfumeは、中田ヤスタカPerfumeと出会う前に書き下ろしていたという『Challenger』へと進めていく。

 

この楽曲の冒頭で、結成から2020年までの西暦を数え、「1234567891011」(2010)の『Perfumeの掟』で用いた数字のオブジェ(※3)に光を灯した三人は、ちょうど10年前の自身へエールを送る。その頃に心に宿らせた、国外への感情を再生させるように。

 

ことのきっかけは『ポリリズム』が挿入歌となった『カーズ2』のワールドプレミアショーに招待され、レッドカーペットを歩いた日にある。ファン等誰もいないつもりでリムジンを降りた途端、名前を呼ぶ人、「コッチデライブヲシテクダサイ」と言う人、メッセージボードを掲げた人等がいっぱいいて、「待っててくれてるならライブを演りに行きたい」と思ったのだそう。

(藤井美保/『Perfume LIVE DATA BOOK』Perfume WORLD TOUR 1st解説)

  

直後のMCで、あ〜ちゃんは連日、「2020年は、私たちPerfumeが目標にしてきた年です」と語る。全7公演の中には、滝川クリステルが招致プレゼンテーションで行なった“お・も・て・な・し”のジェスチャーをとった公演もあった。Perfumeは今回の構成で、迎える東京五輪――そして日本にかぎらない、国外への想いをあらわにしている。

 

“最初からこぶしを握って突き上げたり行進するっていう振り付けが、けっこうPerfumeの中でグーを握ってするってなかなか無いなって思って”

“手のひらで形を作ってっていうのはあるけど、グーを握ってやるってあんまり感じなかったから、すごい力強いし。なんか…いままでの私たちっぽさもあるけど、私たちっぽくない、昔の頑張ってる自分みたいな…いろんな想いが入ってるのかなと思って”

かしゆか/『Perfume LOCKS!』2019年10月28日放送回。『Challenger』の振付について)

Reframe 2019の感想を研究せよ | SCHOOL OF LOCK! | Perfume LOCKS!

 

『Challenger』を踊る際、三人は笑顔を浮かべながら拳を強く握る。まるでその動作を懐かしむように。そして、“パーフェクトスター”になる前――特に少女期の頃に抱いていた“挑戦心”を甦らせるように。

 

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この曲は、いろんなところに連れて行ってくれて、(この曲によって)いろんなところでつながってきました。今日、この東京ドームでも、つながっていきたい

あ〜ちゃん/2月25日・東京ドーム公演初日MCにて)

 

今ツアーの最終盤。意味のある握り拳を再生成したPerfumeは、ラストソング『MY COLOR』のために、握ったばかりの拳を開いていく

 

それはもちろん、“挑戦心”を撤回するためではない。 『JPN』を背負う者として、国内外をつなぐために。そして、コッチデライブヲシテクダサイ――新たな“便り”を求めるために。

 

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(文中敬称略)

 

※1 京セラドーム大阪で迎えた2月1日(土)のツアー初日のみ、M07が『SEVENTH HEAVEN』、M08が『ナナナナナイロ』となる

 

※2 大阪公演&福岡公演、名古屋公演&東京公演で内容が異なる。下記参照。

【大阪&福岡】

チョコレイト・ディスコ(2007)

ねぇ(2010)

コンピューターシティ(2006)

Spring of Life(2012)

Sweet Refrain(2014)

NIGHT FLIGHT(2009)

未来のミュージアム(2013)

STAR TRAIN(2015)

 

【名古屋】

チョコレイト・ディスコ(2007)

Baby cruising Love(2008)

ねぇ(2010)

love the world(2009)

Spring of Life(2012)

Sweet Refrain(2014)

NIGHT FLIGHT(2009)

未来のミュージアム(2013)

STAR TRAIN(2015)

 

【東京初日】

チョコレイト・ディスコ(2007)

Baby cruising Love(2008)

ねぇ(2010)

コンピューターシティ(2006)

Spring of Life(2012)

Sweet Refrain(2014)

NIGHT FLIGHT(2009)

未来のミュージアム(2013)

STAR TRAIN(2015)

 

※3 オブジェが追加されたのは名古屋公演初日以降

 

▼special thanks

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